2007年05月07日

シェフチャウエン Chefchauen

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直樹は胸に抱えたバックパックからメモ帳を取り出し、デイビッドが書いてくれたモロッコの地図を見た。殴り書きの英語で大きく書かれた「Chefchauen」という地名。ここが次の行き先だ。
 
タクシーはバスターミナルに直樹を連れて行ってくれた。値段も5ユーロで、距離を考えればヨーロッパよりはるかに安かった。直樹は両替をしていない事に気がついたが、ユーロで払えた。それに言葉も、直樹が片言で話すスペイン語がなんとか通じた。
 
バスターミナルは薄暗く、大型のバスがひしめくように停まっていた。バスを誘導している顎ひげのおじさんに「シェフチャウエン行きのバスはどこ?」と訪ねると、隣に停車しているバスを指差し、近くで談笑していたドライバーを紹介してくれた。
 
ドライバー曰く、30分後に出発し3時間半で着く。値段も300円くらいで高くない。また両替屋はターミナルを出てすぐあるとの事だった。バスの横面が開いて荷物入れになっている。直樹はドライバーに確認してから持っていたスーツケースを入れ、街に出た。
 
まずは両替をしようと、目が大きく優しそうな男性に道を尋ねた。すると彼は優しく微笑んで、わざわざ野村を両替所まで連れて行ってくれた。男はタクシーの運転手らしく、直樹がシェフチャウエンまで行くと言うと「タクシーで4000円で行こう」と誘って来た。バスのチケットがあるからと断ったら、2度ほど誘ってきたが、しつこいという家事ではなかった。モロッコ人は親切で、危ないとか騙されるという感じはしなかった。
 
バスの中でも近くに座ったモロッコ人の若者と仲良くなり、アッと言う間にシェフチャウエンまで来てしまった。
 
 ドライバーに「ここだ」と声をかけられ、坂の途中で降ろされた。直樹が荷物をトランクから降ろすと、バスはUターンして坂を下って行った。

 降り際に坂を上って行けばシェフチャウエンだと言われた。直樹はステップを降りて、まぶしいぐらいの日差しの下で前方を見た。坂は豊島園プールのすべり台くらい急で、結構な距離だった。スーツケースを引きずって登る直樹は次第に汗だくとなった。 何回も休憩し、汗を拭いて呼吸を整えた。何回目の休憩だっただろう。だいぶ先の方に、白い看板を見つけた。次の休憩の時に、赤い字で「HOTEL」と書かれているのた看板を確認した。
 
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やっとこさ辿り着いた。「HOTEL BOSTON」はホテルというよりゲストハウスだった。エレベーターもなく、部屋を見るだけだというのに重いスーツケースを持って、階段を登らされた。
 
 汗だく、息ゼイゼイ状態で通された薄暗い部屋は、床置のマットレス・ソファーに重厚な茶色いモロッコ絨毯がひかれていた。直樹はそのソファーに座り込んで、ハッ〜とため息のような声を出した。
 
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 案内してくれた自称ホテルのオーナーは、心臓が弱いのか直樹よりも大きな音でゼイゼイと呼吸をしながら「この部屋で1日90ディナール(約9ユーロ=1350円)」と大きいがかすれた声で言った。直樹は汗が身体を滴り落ちるのを感じながら、部屋を見渡した。

広いけど窓もなく、暗い感じの部屋だ。90ディナールという値段も直樹にとって少し高い。ここに荷物を置かせてもらって他のゲストハウスを見に行こう。そう思った直樹はTシャツの袖で顔の汗を拭いた。落ち着いて1息はいてから、顔がやたら大きい割に小さい目をしたオーナーに、そう言った。
 
 するとオーナーは、「まぁ、これを吸え!」と言わんばかりに、吸いかけのジョイントを直樹に差し出した。
「俺、タバコは吸わないんっす」と低調にお断りしたが、「THIS IS MADE IN MOROCCO!」と言いながら、小さい目の奥で訴えるような眼差しで腕を差し出した。直樹はリアクションが取れぬまま黙りこんだ。オーナーも、そのポーズのまま動かない。オーナーの小さい目の奥を見た直樹は、つい、ポークソーセージのような指に挟まれたジョイントを受け取ってしまった。
 
「YES ! SMOKE SMOKE!」と瞬きもせず直樹を見つめるオーナー。直樹は言われるがままに、ジョイントを口に付けた。軽くふかしたが嫌いなタバコの味は不思議とせず、嗅いだ事のないようなかぐわしい香りがした。
 
煙りの匂いだろうか?それを確かめたくて2口目は普通に吸ってみた。煙りを鼻から出す時に、その微妙な香りがはっきりと感じられた。「うまい!」そう思って、3服目は思いきり吸った。汗をかいた後の身体は、まるで細胞がリフレッシュされたように体中に浸透していくのが分かった。
 
直樹はオーナーになんとかジョイントを返すと。それ以上一歩も動けなかった。
 
結局、直樹はHOTEL BOSTONに泊まる事になった。最初に座ったソファーに倒れ込むと、重厚そうに見えた絨毯が、ただ埃でうす汚れただけだと分かった。
「まぁ、いいや」そう言った直樹は、目的地のシェフチャウエンに辿り着いた事が何よりも嬉しく、とても幸せな気持ちに満ちあふれていた。
 
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posted by 麻丘恵 at 09:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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